2012年6月20日水曜日

質問によって答える

たとえば、「私は妻とこんな喧嘩をしました。あんなやつとは離婚したほうがいいでしょうか」と相談されたとき、こちらから「うーん、離婚したほうがいいと思いますか」と聞き返したりすることがよくあります。

こういうのを「アンサリング・バイ・アスキング」(問いかけによる答え)といって、答えているようだけど、なにも答えてはいない。すると、クライエントはさらにその先を自分で考えていかなければならない。

その人が自分で考えて成長していくわけですから、これはこれで意味のある応答法です。「それは絶対に離婚しなさい」とか、「絶対に別れるべきではありません」などというのは、深いレベルでのコミットにはなっていません。

しかし、セラピストが「アンサリングーバイーアスキング」ばかり形式的にやっていると、だんだん相手を突っぱねたかたちになってきて、治療者はコミットしていないことになる。

そうすると、クライエントは腹立たしくなってきて、来なくなります。かといって、コミットが「よけいなお世話」的な浅いレベルになってしまってもいけない。川寄さんが考えておられるのも、そこの微妙なところだと思います。

クライエントがいくらお金に困っているからといって、絶対にお金を貸すようなことをしてはいけない。これはカウンセリングの鉄則ですが、それと似たようなコミットのしかたをして失敗している例がかなりあります。

おもしろいのは、フロイト自身、そういうことを絶対にしてはいけないということをさんざん書いていますが、彼自身、かつてはクライエントにご飯を食べさせたり、お金を貸したりしているのです。

その誤りにあとで気づいて、そういうことを書くようになるわけですが、ただ、そういう規則破りも、ときとして意味をもつことがあります。

しかし、意味をもつことがあるということは、大失敗する可能性もあるということです。コミットに失敗したら、クライエントを死なせてしまうことにもなりかねませんから、よほど注意が必要です。