2014年12月3日水曜日

半島をめぐる大国の確執

農地や肥料、さらには子不ルギーの不足といったことは北朝鮮の食糧危機のむしろ副次的要因である。これら不足要因を対外協力によって補填したとしても、北朝鮮農業を救済することはできない。北朝鮮の食糧不足は今後ますます窮迫の度を増していくにちがいない。危機は刻々と迫っている。韓国は経済危機の克服と同時に、北朝鮮の崩壊にいかに備えるか、緊急事態を考慮してことにあたらねばならないのである。北朝鮮への「太陽政策」といったことだけで大丈夫なのであろうか。

本章では北朝鮮について扱ったものが少ないのは残念である。私に強い印象を残している北朝鮮に関する名著を二つだけあげれば、一つは玉城素著『北朝鮮破局への道チュチェ型社会主義の病理』(一九九六年、読売新聞社)であり、もう一つは萩原遼著『北朝鮮に消えた友と私の物語』(一九九八年、文蓼春秋)である。前者は、タイトルがそのエッセンスをよく伝えている。北朝鮮の政治、経済、社会の「袋小路」のありさまを冷静な眼で追究したこの分野の碩学の名著である。後者は、日本で青春時代をともに過ごし後に北朝鮮に渡っていった友のその後を追いながら北朝鮮という国家の暴力性を追究したノンフィクションである。

もう一つあげておかなければならない名著がある。ドンーオーバードーフォー著、菱木一美訳『二つのコリアー国際政治の中の朝鮮半島』二九九八年、共同通信社)である。朝鮮半島の内実と抗争、半島をめぐる大国の確執と調整の過程を本書ほど包括的かつ克明に論じた秀作は他にない。これほどの朝鮮半島分析はしばらく世にでることもあるまいとさえ思わせるほどである。

本書のゲラに朱を入れている最中に黄長嘩『金日正への宣戦布告黄長嘩回顧録』(一九九九年、萩原遼訳、文蓼春秋)が出版された。買い求めて一気に読了した。黄氏は一九九七年二月に北朝鮮から韓国に亡命してきた朝鮮労働党書記である。主体思想の構築に重要な役割を担い、金日成・金正日父子の周辺にいてその性格、思想と行動を知悉する人物である。北朝鮮という国家の特異な組織編成のありよう、指導部の異常な立ち居振舞いが、その政治支配の中枢にいた人間の口から直接語られており、第一級の資料的価値をもつものといえよう。