2014年6月17日火曜日

心身の動揺が血圧を上げる

精神的興奮や体を動かしたときに血圧が上がることはよく知られています。遅くまで仕事をしていてあまり寝ていない吟受付時間ギリギリで走って病院に来た時、資金ぐりが大変で心身の疲労かはげしい時などに血圧を測ってみると、たいてい普通の時より上がっています。びっくりするほど上がっていることもあります。血圧が高いため、検査と治療の目的で入院した場合でも、入院しただけで血圧が下がることが少なくありません。

血圧が高いといっても、入院したその日から血圧を下げる薬を処方すると、薬が効いたのか、入院することで下がったのか分からなくなってしまいます。ですから、緊急な場合以外は、心身の安静をとらせ、少なくとも二日三日くらいは血圧がどうなるのかを見届けたうえで薬を使います。その方が薬の効果もよくわかるし、その人の高血圧症がどのような状態にあるのかを判断するうえで役立ちます。

高血圧のときも正常またはその近くまで血圧が下がることもあるというように、血圧変動の幅が大きいものを動揺性高血圧症、血圧の動揺が少なく、いつ測っても常に高いものを固定性高血圧症と呼ぶこともあります。高血圧症としては、動揺性のものは一般に軽症で、固定性のものは中等以上の場合が多いといえます。一般に最高血圧のほうが、最低血圧より動揺しやすく、とくに高齢者では動揺の幅が大きいのが普通です。

日常生活のおもな活動による血圧の変化を観察してみますと、リラックスしているときにくらべ会議などで多人数を相手に話すときにはいちじるしく上昇します。ふつうの会話ではそれほど上からず、睡眠中はかなり下がるのが普通です。一般には、男性よりも女性に変動の幅の大きい場合が多いようです。

2014年6月3日火曜日

スコットランドの古い風習

スタンフォード大学に入学してまず単位をとった科目に、テレビや映画の効果を扱うセミナーがあった。あれは夜の七時半から始まるコースで、他の主要な科目と同様、十人余りの学生に対して、二人の担当教貝がつくぜいたくなクラスであった。この科目ではほとんど毎回、コミュニケーション研究史上の著名な実験に使用されたフィルムが上映され、その後でこの実験の理論的、方法論的意味が議論される。

あのセミナーは夕食後のリラックスした雰囲気のなかで、行われるのを常とした。スタンフォードのような大きなキャンパスを持つアメリカの大学では、多くの教授がキャンパスに自分の住宅を持っている。学生も寄宿舎に住むか、キャンパスの周辺にアパートを借りて住んでいる。だから夕食後の落ち着いた気分のなかで行う、あのようなセミナーも可能だったのであろう。

アメリカにはスコットランドの古い風習を受けついで、十月の終りにハロウィーンといわれる祭りの習慣があった。もともと天上の諸聖人を祭るためのこの祝日は、今日ではいわば子供の日になっている。その夜はおとぎ話に出てくる魔女や、魔女のつれている黒猫の絵があちこちに飾られる。またカボチャをくり抜いて作った、お化けランタンを門口に置く。そして日が暮れてあたりが暗くなると、子供たちは魔女や海賊、あるいはスーパーマンやシンデレラと、おもいおもいの仮装をこらして、近所の家の戸をたたく。

これに対して大人たちはチョコレートやキャンディーを用意して、子供たちのもってきた袋に入れてやるのである。しつけの厳しいアメリカの家庭にあって、この日は年に一度の子供の無礼講の日である。あのコミュニケーション研究の、夜のセミナーでも、教授はつけヒゲで仮装してセミナーに現われたし、セミナーの後、私たちは仲間の学生のアパートに集まって、ハロウイーンーパーティーをした。今から考えるとまことによき古き時代の学生生活であった。

しかしこのセミナーの初日の当惑を私は忘れることができない。その日、開講一番に見せられたフィルムは、何と第二次大戦中に作成された戦意昂揚の宣伝映画であった。「イギリスの闘い」と名づけられたこのフィルムは、ヒトラーのイギリス上陸作戦を阻止するため、ドイツ空軍を迎え撃つ、イギリス空軍の活躍を中心としたフィルムであった。それはこの英国戦闘機隊の英雄的な闘いを中心に、ヒトラーのナチズムに抵抗することが、いかに大切かということを説いた映画であった。

しかもこのフィルムのなかには、ナチスの大会の光景と一緒に、日の丸の小旗を振りながら万歳を叫ぶ日本の群集もでてくる。あれは日本において日本人によって撮影された、記録映画の一部であったのであろうか。しかしあの宣伝映画のなかに出てくる日本人の群は、いかにもチンチクリンでチョコマカと歩いていた。それだけに日本の軍国主義がいかにも、戯画化されて映し出されていた。